英語版(新)の『よつばと!』について。
タイトル | YOTSUBA&! |
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出版社 | YenPress |
形式 | ペーパーバック |
サイズ | 191×128×18mm |
集めた数 | 12 |
タイトルは「YOTSUBATO!」ではなく「YOTSUBA&!」。日本語版の表紙にも書かれている表記ということもあり、ほとんどの国でこのタイトルになっている。
トップページでも触れたように、当初出版を手掛けていたA.D.Visionが2009年に倒産したことから、YenPress社から発行し直されている。翻訳なども変更されているようだ。
作中のオノマトペなどは横に訳を添える方式で、絵の修正を伴う改変はほぼ見られない。(書き文字のセリフ程度)
1巻の終盤のシーンで、よつばが「翻訳家とこんにゃくやを間違える」というものがある。これは日本語特有のシャレであるため、言語ごとに違いが出やすく面白い。
まずは日本語におけるやりとりから。
とーちゃん「んー?」「しごとー?」「翻訳家だよー」
よつば「こんにゃくや」
風香「へ?こんにゃく屋?」 出典:日本語版第1巻7話
続いて英語におけるやりとり。
とーちゃん「NN?」「MY WORK?」「I'M A TRANSLATOR...(翻訳家だよ)」
よつば「IT'S TRASLOADER.(ごみ収集車)」
風香「HUH? TRASLOADER?(え?ごみ収集車?)」注釈:※THE JAPANESE FOR "TRANSLATOR" IS HONYAKUKA. YOTSUBA MISPRONOUNCES IT AS KONNYAKUYA, OR PERSON WHO MAKES KONNYAKU, A KIND OF JELLY, WHICH IS WHAT FUUKA THINKS KOIWAI-SAN DOES FOR A LIVING THROUGHOUT MUCH OF THE SERIES.
(※日本語でTRASLOADERは「ホンヤクカ」。よつばはこれを「コンニャクヤ」、つまりゼリー状のKONYAKUを作る人だと勘違いしている。この作品では風香は小岩井さんがこんにゃく屋で生計を立てていると思っている) 出典:英語版(新)第1巻7話
さすがに日本語のシャレをキープするのは難しかったのか、この場でのみ通じるネタとして翻訳しているものの、注釈などからせめてオリジナル版における意味をちゃんと伝えようとする意思を感じる。 なお、ここまで丁寧に注釈があるのは、4巻24話でも風香のセリフとしてこんにゃく屋が登場するためだが、そちらでも「風香は小岩井さんがこんにゃくを作っていると思っている。」といった注釈が入っている。
よつばと序盤にはしばしばセミの名前が登場する。
英語ではどう翻訳されているかについて紹介する。
ジャンボ「おーおめでとう あぶらぜみだ」
ジャンボ「クマゼミだ!クマは今日それ一匹だけだ!一番大きいぞ」
出典:日本語版第1巻6話
ジャンボ「OHHH, GOOD JOB. THAT'S AN ABURAZEMI(あぶらぜみだ).」
※ABURAZEMI: LIT. "OILY CICADA." A COMMON SPECIES OF CICADA THAT IS LARGE AND BROWN, AND CHIRPS LOUDLY.ジャンボ「THAT'S A KUMAZEMI(クマゼミだ)! IT'S THE ONLY ONE OF THAT KIND WE'VE GOT TODAY. AND IT'S THE BIGGEST CICADA WE'VE SEEN YET!」
出典:英語版(新)第1巻6話
※KUMAZEMI: LIT. "BEAR CICADA. A LARGE, BLACK-COLORED SPECIES OF CICADA.
アメリカにもセミ自体は生息しており、総称して「CICADA」と呼ばれるものの、アブラゼミやクマゼミはアジア圏にしか分布が無い※1※2。そのためか、直訳で「ABURAZEMI」や「KUMAZEMI」としたうえで注釈で補足を入れている。
注釈にある「OILY CICADA」や「BEAR CICADA」はあくまで意味を伝えるための直訳で、実際にはアブラゼミは「Graptopsaltria nigrofuscata」、クマゼミは「Cryptotympana facialis」といった学名しか呼び名が無い様子。クマゼミのWikipediaに英語版ページが無いことからも、いかに馴染みが薄いかがうかがえる。
参考として、Switch用ソフト『あつまれ どうぶつの森』の北米言語ではアブラゼミは「Brown cicada(茶色いセミ)※3、クマゼミは「Giant cicada(大きなセミ)」※4となっていることからも、アメリカ人に馴染みのあるセミの固有名は無い可能性が高い。
よつばが「つくつくぼうしはセミではなく妖精」と勘違いするネタがある。日本語名「つくつくぼうし」がセミの名を冠しておらず、かつ呼び名が鳴き声に由来することによって成立するネタだが、国によっては「〇〇セミ」といった名前だったり、鳴き声と呼び名が異なるので翻訳が難しい箇所の一つである。
アブラゼミとクマゼミが注釈だった時点で察しは付くが、一応チェックする。
書き文字「つくつくぼーし」
よつば「つくつくぼーしがつくつくぼーしいってる」
とーちゃん「ああ つくつくぼーしだからな」 出典:日本語版第4巻24話
書き文字「TSUKUTSUKU BOLUSHI」
よつば「THE TSUKU-TSUKU BOUSHI'S SAYING *TSUKU-TSUKU BOUSHI.」
とーちゃん「YUP, THAT'S BECAUSE IT'S A TSUKU-TSUKU BOUSHI.」
※TSURUTSUKU BOLUSH: A KIND OF CICADA THAT APPEARS IN LATE SUMMER/EARLY FALL ITS NAME DESCRIBES THE SOUND IT MAKES.
(※注釈:つくつくぼうしは晩夏から初秋にかけて発生するセミの一種。鳴き声からその名がついた) 出典:英語版(新)第4巻24話
案の定というべきか、こちらも日本語ネタを成立させるためなのか注釈多めである。
アメリカにおいてツクツクボウシを指す言葉は学名の「Meimuna opalifera」※1と、呼び名の「Walker's cicada」※2の2つがある。「Walker's cicada」はイギリスの昆虫学者フランシス・ウォーカーに由来するようだ。
ただ、ツクツクボウシの生息域がアジア圏にとどまっているためかこちらも馴染みが無い様子。注釈が必要であり、そちらでは学名も呼び名も使われていないあたり、「Walker's cicada」と書いてもアメリカ人にはあまりピンと来ないのかもしれない。