台湾のよつばと!

中国語(繁体字)版の『よつばと!』について。

4. 中国語(繁体字)

プロフィール画像
タイトル四葉妹妹!
出版社台湾角川書店
形式カバー
サイズ180×128×16mm
集めた数10

タイトルは「スーイエ メイメイ」と読む。「妹妹」は「〜ちゃん」という意味で、年少者に対する愛称として付けられるのだとか。作中でも日本語で「よつばちゃん」と呼ばれる場面は「四葉妹妹」と訳されている。

韓国語版と同じく、作中のオノマトペをはじめとした書き文字の多くが中国語に置き換えられている。ただし、すべてが対象ではないようで同じページのオノマトペでも混在が見られ、背景の看板や表札などは日本語のまま残っている。(同じ漢字圏なので変更無しで意味が通じる箇所が多いのかもしれない)

朝だ(日本)
日本語版第1巻2話
朝だ(中国語繁体字)
中国語(繁体字)版第1巻2話
朝だ(韓国)
韓国語版第1巻2話

翻訳比較:翻訳家→こんにゃくや

こんにゃくや(日本)
日本語版第1巻7話
こんにゃくや(中国)
中国語(繁体字)版第1巻7話

1巻の終盤のシーンで、よつばが「翻訳家とこんにゃくやを間違える」というものがある。これは日本語特有のシャレであるため、言語ごとに違いが出やすく面白い。

まずは日本語におけるやりとりから。

とーちゃん「んー?」「しごとー?」「翻訳家だよー」

よつば「こんにゃくや」
風香「へ?こんにゃく屋?」 出典:日本語版第1巻7話

続いて韓国語におけるやりとり。

とーちゃん「嗯?」「我的工作?」「我在當 翻譯啊!(翻訳家だよ!)」

よつば「做蒟蒻的。(こんにゃく作り)」
風香「咦? 做蒟蒻的?(え?こんにゃく作り?)」
※日文「翻譯」音近「蒟蒻」。
(※注釈:日本語の「ほんやく」と「こんにゃく」は音が似ている) 出典:中国語(繁体字)版第1巻7話

韓国と異なり、こちらはネタをキープするのが難しかった様子。 「翻訳」を意味する「翻譯(fānyì)」は「ファンイー」、こんにゃくを意味する「蒟蒻(jǔruò)」は「ジュールオ」と読むため音的にも似ておらず、潔く注釈に任せたようだ。

このこんにゃく屋ネタは4巻のとあるシーンにも影響するので、台湾版の第1巻の発売は2004年1月、日本版の第4巻の発売が2005年8月であることを踏まえると、無理にネタをキープしなかったのはある意味正解だったのかもしれない。

翻訳比較:アブラゼミとクマゼミ

クマゼミ(日本)
日本語版第1巻6話
クマゼミ(中国)
中国語(繁体字)版第1巻6話

よつばと序盤にはしばしばセミの名前が登場する。
韓国ではどう翻訳されているかについて紹介する。

ジャンボ「おーおめでとう あぶらぜみだ」

ジャンボ「クマゼミだ!クマは今日それ一匹だけだ!一番大きいぞ」

出典:日本語版第1巻

ジャンボ「喔ー,恭喜恭喜。 抓到油蟬了。(あぶらぜみだ)」

ジャンボ「是熊蟬耶!(クマゼミだ!) 今天只有抓到 這一隻熊蟬喔! 是最大隻的。」

出典:中国語(繁体字)版第1巻

アブラゼミもクマゼミも中国(台湾)に生息しているためかほぼそのままの訳。

そこでひとつ浮かぶ疑問は、台湾語版のアブラゼミが厳密にどの種を指しているのかである。
アブラゼミは日本をはじめ東アジアで広く分布しているが、日本で見られるアブラゼミは比較的北の方にしか分布しておらず、九州や屋久島よりも南西にある諸島には生息していない※1。南西方面では、奄美大島から沖縄本島にかけてリュウキュウアブラゼミが生息しているものの、こちらは中琉球の特有種※2であるため台湾までいくと別種に切り替わるようだ。
消去法でいくとタイワンアブラゼミ※3あたりなのではないかと推測するが、確かなことは不明である。もしかしたら日本の作品であることを考慮して日本のアブラムシを指している可能性もある。

クマゼミも日本固有種なので※4、単にクマゼミと言った場合は厳密には台湾の別種の可能性がある。候補としてはスジアカクマゼミ※5やタイワンクマゼミ※6が挙げられるが、こちらも確定できる材料はない。


出典

  1. アブラゼミ|セミ図鑑|セミ大調査|NHKシチズンラボ(2025/05/04閲覧)
  2. Yambaru Nature Guide Wanyu リュウキュウアブラゼミ(2025/05/04閲覧)
  3. 昆虫漂流記 タイワンアブラゼミ(台湾の保護昆虫)Formotosena seebohmi(2025/05/04閲覧)
  4. 現代ビジネス 自由研究にもってこい!大人も知らない謎だらけ「セミの真実」(2025/05/04閲覧)
  5. 石川県立自然史資料館研究報告 第11号 石川県金沢市周辺における外来種スジアカクマゼミの分布拡大:2022年の調査と既往結果の比較から(2025/05/04閲覧)
  6. セミの図鑑 タイワンクマゼミ(2025/05/04閲覧)

翻訳比較:つくつくぼうし

つくつくぼーし(日本)
日本語版第4巻24話
つくつくぼーし(中国)
中国語(繁体字)版第4巻24話

よつばが「つくつくぼうしはセミではなく妖精」と勘違いするネタがある。日本語名「つくつくぼうし」がセミの名を冠しておらず、かつ呼び名が鳴き声に由来することによって成立するネタだが、国によっては「〇〇セミ」といった名前だったり、鳴き声と呼び名が異なるので翻訳が難しい箇所の一つである。

書き文字「つくつくぼーし」

よつば「つくつくぼーしがつくつくぼーしいってる」
とーちゃん「ああ つくつくぼーしだからな」 出典:日本語版第4巻

書き文字「つくつくぼーし」※訳なし

よつば「「尖尖小帽」正在 「尖尖小帽」地叫呢!」
とーちゃん「所以才叫 「寒蟬」啊!(カンゼミだからな)」

※つくつくぼーし (tsukutsukubo-shi) 是寒蟬,叫雙和名稱發音相同。四葉以為是發音相同的「尖尖小帽」。日文中的「寒蟬」和「尖尖小帽」是同一個字。
(※注釈:つくつくぼーしは寒蟬のことで、名前と同じように鳴く。よつばは「つくつく帽子」だと思っている。日本語では「寒蟬」と「つくつくぼーし」は同じ言葉である。) 出典:韓国語版第4巻

注釈こそ付いているものの、ほぼ直訳のようだ。

「寒蟬/寒蝉」は日本語にも存在する単語で、ツクツクボウシとヒグラシ両方の意味がある※7。上記の注釈はおそらくツクツクボウシの方を指しているはずである。

この訳だととーちゃんがそのまま「寒蟬」と言っているので、このあとの勘違いネタが成立しないが…良いのだろうか。(4巻27話のネタは特に注釈も改変もされていないので、台湾の人にネタが伝わっていない可能性がある)


出典

  1. 暦生活 七十二候/寒蝉鳴(2025/05/04閲覧)