タイトル | YOTSUBA&! |
---|---|
出版社 | Wydawnictwo Kotori |
形式 | ペーパーバック |
サイズ | 182×130×14mm |
集めた数 | 3 |
印刷の質は高く、ペーパーバック形式ではあるものの折り返しカバーを再現した眺めの表紙になっている。
オノマトペだけでなく作中の書き文字や背景などもすべてポーランド語に置き換えられているなど、フランスや韓国並に手間のかかったローカライズをしているようだ。
1巻の終盤のシーンで、よつばが「翻訳家とこんにゃくやを間違える」というものがある。これは日本語特有のシャレであるため、言語ごとに違いが出やすく面白い。
まずは日本語におけるやりとりから。
とーちゃん「んー?」「しごとー?」「翻訳家だよー」
よつば「こんにゃくや」
風香「へ?こんにゃく屋?」 出典:日本語版第1巻7話
続いてポーランド語におけるやりとり。
とーちゃん「HM? CO ROBIĘ?(何をしてるかって?)」「TŁUMA-CZĘ. TO CIĘŻKA PRACA.(翻訳してる。大変だよ。)」「HARUJE JAK KOŃ.(馬車馬のように働いている。)」
出典:ポーランド語版第1巻7話
よつば「...KOŃJAK.(…コンヤック)」
風香「KOŃ...? AAA, CHODZI Ο ΚΟΝ-JAC*?(コン…? ああ、もしかしてコンニャクのこと?)」
注釈:*コンニャク:コンニャクイモの球茎から作られるゼリー状の食品[訳注]。
翻訳の工夫により日本語版そのままコンニャクになっている。
とーちゃん側の回答として「HARUJE JAK KOŃ.」というものが付け足されているが、これはポーランドの慣用句「harować jak koń」で、英語における「work like a horse」、日本語で言えば「馬車馬のように働く」といった意味。「harować」は「働く」という不定形であり、「haruje」で「〜働いている」という現在形になる。(ちなみにjakはlikeである)
よつばはそれを聞き違えて「KOŃJAK」とひっくり返して覚えてしまい、結果それがコンニャクに聞こえ、風香がコンニャクだと理解する…といった流れだ。
近年コンニャクが「KONJAC」という名前でアメリカやヨーロッパなどに広がりつつあるようだ※1。
よつばと序盤にはしばしばセミの名前が登場する。
ポーランド語ではどう翻訳されているかについて紹介する。
ジャンボ「おーおめでとう あぶらぜみだ」
ジャンボ「クマゼミだ!クマは今日それ一匹だけだ!一番大きいぞ」
出典:日本語版第1巻6話
ジャンボ「0, BRAWO!(おーブラボー!)」「ŁADNA SZTUKA.(いいものだ)」
ジャンボ「TO CYKADA NIEDŹWIEDZIA!(これはクマゼミだ!) DZISIAJ BYŁA TU TYLKO TA JEDNA!(今日はこれ1匹だけだ!)」「JEST NAJWIĘK-SZA ZE WSZYST-KICH!(一番大きいぞ!)」
出典:ポーランド語版第1巻6話
翻訳の傾向はドイツなどと同じく種類をぼかす…かと思いきや、セミの名前も登場している。順に見ていこう。
冒頭から少し脱線するが、ジャンボの「BRAWO」はイタリア語の「BRAVO」が語源。イタリア語では対象が男女か複数かで形が変わるというルールがあり、例えば女性単数であれば「BRAVA (ブラーヴァ)」となるが、ポーランドでは特にそういったルールは無いようだ。
「CYKADA」はラテン語「cicada」に由来し、英語の「CICADA」と同じ語源である。ポーランド語には名詞の性による形容詞の変化があり、「Cykada(セミ)」は女性名詞とのこと。
「NIEDŹWIEDZIA」は「クマの」という意味で、「niedźwiedzi」がセミに合わせて女性単数形に変化している。
この訳を見ても分かるとおり日本語の直訳であり、ポーランドに「CYKADA NIEDŹWIEDZIA」という名前のセミがいるわけではなさそうだ。
ポーランドにセミはいないことはないようだが、国土が北緯49度から55度に位置している。セミの北限は50度ほどなのでセミにとっては厳しい環境だろう。隣接しているドイツでは北側にあまりセミがいないことからしても、およそ似たような状況と思われる。