フランスの『よつばと!』について。
タイトル | YOTSUBA&! |
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出版社 | KUROKAWA |
形式 | カバー |
サイズ | 183×130×17mm |
集めた数 | 3 |
タイトルは英語版と同じく「YOTSUBA&!」。判型は日本とほぼ同じでカバーも付いており、ヨーロッパ圏の中ではかなりクオリティが良い。作中のオノマトペ、看板の文字などほぼすべての日本語がフランス語に置き換えられており、手間のかかった一品である。
1巻の終盤のシーンで、よつばが「翻訳家とこんにゃくやを間違える」というものがある。これは日本語特有のシャレであるため、言語ごとに違いが出やすく面白い。
まずは日本語におけるやりとりから。
とーちゃん「んー?」「しごとー?」「翻訳家だよー」
よつば「こんにゃくや」
風香「へ?こんにゃく屋?」 出典:日本語版第1巻7話
続いてフランス語におけるやりとり。
とーちゃん「HUM?」「MON TRAVAIL?」「JE SUIS TRADUCTEUR!(翻訳家だよ!)」
出典:フランス語版第1巻7話
よつば「TRACTUREUR!(トラクトゥラー!)」
風香「HEIN? IL FABRIQUE DES TRACTEURS?(え?トラクター?)」
英語圏でもそうだが、このダジャレをそのまま翻訳するのは不可能のようだ。
ここでは「TRADUCTEUR(トラドゥクター)」→「TRACTUREUR(トラクトゥラー)」→「TRACTEUR(トラクター)」と1回言い間違いを挟んでいる。
特に注釈などは無いので、4巻でどう繋げるのか気になるところである。(未入手なのでいずれチェックしたい)
よつばと序盤にはしばしばセミの名前が登場する。
フランス語ではどう翻訳されているかについて紹介する。
ジャンボ「おーおめでとう あぶらぜみだ」
ジャンボ「クマゼミだ!クマは今日それ一匹だけだ!一番大きいぞ」
出典:日本語版第1巻6話
ジャンボ「OOOH, BRAVO! C'EST UNE CIGALE GRISE(灰色のセミだ)!」
ジャンボ「C'EST UNE CIGALE PLEBEIENNE(クマゼミだ)! LA PREMIÈRE QU'ON PREND AUJOURD'HUI! C'EST LA PLUS GROSSE DE TOUTES!」
出典:フランス語版第1巻6話
「cigale」がセミ。ラテン語の「cicada」を語源とし「鳴く虫」という意味がある※1。(おそらく英語の「cicada」はラテン語のまま変形しなかったのだろう)
ヨーロッパ圏はセミの種類が少なく、フランスだと南フランスにしか生息していない※2。その希少性からか南フランスのプロヴァンス地方ではセミが幸運の象徴として愛されている※3。
今回アブラゼミは「cigale grise」と訳されており、フランス版Wikipediaによると「Cicada orni」を意味する※4。Cicada orniについて日本での情報は見当たらなかったが、英語版Wikipediaには「Common cicada」や「Ash cicada」と記載があり、普遍的かつ灰色の見た目であることは確かなようだ。南・中央ヨーロッパでは一般的な種らしいので、アブラゼミのニュアンスを訳すにあたってポジションとしては妥当なところだろう。
クマゼミの訳「CIGALE PLEBEIENNE」は学名「Lyristes plebejus」のことで、トネリコゼミを意味する。フランス南部では普通に見られ、フランスでは最大のセミとのこと※5。
前述のアブラゼミがごく一般的なセミである「Cicada orni」と訳され、クマゼミが最大のセミであるトネリコゼミと訳されていることから、フランス語版はフランス人が自然に読めるように翻訳する方針なのだろう。