スペインの『よつばと!』について。
タイトル | ¡Yotsuba! |
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出版社 | Norma Editorial |
形式 | カバー |
サイズ | 175×115×16mm |
集めた数 | 3 |
タイトルは「¡Yotsuba!」で、英語版と異なり&は付かない。スペイン語は感嘆符や疑問符を使うときは文末だけでなく文頭にも記号を付けるルールがあり、タイトルもそれに沿っている。
オノマトペは翻訳しない方針のようで、変更は基本的に吹き出しや書き文字のセリフに留まる。
他言語と比較して若干単行本のサイズが小さいからか、全体的に絵が端っこで途切れる傾向にある。(掲載画像の「ばんっ」などが顕著)
1巻の終盤のシーンで、よつばが「翻訳家とこんにゃくやを間違える」というものがある。これは日本語特有のシャレであるため、言語ごとに違いが出やすく面白い。
まずは日本語におけるやりとりから。
とーちゃん「んー?」「しごとー?」「翻訳家だよー」
よつば「こんにゃくや」
風香「へ?こんにゃく屋?」 出典:日本語版第1巻7話
続いてスペイン語におけるやりとり。
とーちゃん「¿HUM?」「¿MI TRA-BAJO(しごと)?」「SOY TRADUC-TOR.(翻訳家だよ) HAGO TRADUC-CIONES.(翻訳してる)」
出典:スペイン語版第1巻7話
よつば「¡HACE ATRAC-CIONES!(アトラクションつくってる!)」
風香「¿ATRAC-CIONES?(アトラクション?)」
英語圏と同じく、こんにゃくをキープするのは難しかったようだ。
ここでは「traducciones(翻訳)」を「atracciones(アトラクション)」と言い間違えたことになっている。
面白いのは言い間違いネタのためにとーちゃんの回答が少し変わっている点で、職業に重ねて何をしているかを述べることで語感を「atracciones(アトラクション)」に繋げている。
よつばと序盤にはしばしばセミの名前が登場する。
スペイン語ではどう翻訳されているかについて紹介する。
ジャンボ「おーおめでとう あぶらぜみだ」
ジャンボ「クマゼミだ!クマは今日それ一匹だけだ!一番大きいぞ」
出典:日本語版第1巻6話
ジャンボ「¡MUY BIEN(良いな)! MIRA, ES TODA MA-RRÓN.(見ろ、全身茶色だ)」
ジャンボ「¡ES UNA CIGARRA OSO(熊ゼミだ)! POR HOY YA ESTÁ BIEN(今日はもう十分だ). ES LA MÁS GRANDE(一番大きいぞ), VALE POR TRES(3つ分の価値がある).」
出典:スペイン語版第1巻6話
あまりセミの具体的な名前には触れていない。セミに馴染みが無い可能性があるが、背景を理解するにあたってスペインにおけるセミについておさらいする。
まず、「CIGARRA」がセミを指す。英語やフランス語と同様、ラテン語の「cicada」を語源とした言葉である。
スペインにおけるセミの情報はあまり見当たらなかったが、フランスより南部ということもありスペインにもセミは生息しているようだ※1。ただし数は日本より少なく、「Cicada orni」が主とのこと。
フランス語版のページでも触れたがCicada orniはヨーロッパ圏ではもっともポピュラーの種類のセミのようである。
ただ、アブラゼミについては名前ではなく色のみで表現され、「全部が茶色い」といった程度の言及にとどまっている。
クマゼミのほうは「CIGARRA OSO」と表現されているが、こういう名前のセミがいるわけではなく「OSO(熊)」と直訳のようである。
「ES LA MÁS GRANDE(一番大きいぞ)」に加えて「VALE POR TRES(3つ分の価値がある)」と重ねているのは、比較することでセミのレアリティを分かりやすく表現するためだろう。
クマゼミが直訳になっている点や、分かりやすい比較が必要になるということは、おそらくスペインはセミに馴染みが薄い、少なくとも大きさがぱっと分かるほどの共通認識が無いということなのかもしれない。