タイトル | YOTSUBA&! |
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出版社 | Tokyopop GmbH |
形式 | ペーパーバック |
サイズ | 188×125×14mm |
集めた数 | 5 |
旧版とはロゴなどが異なるが、判型は同じ。
製本の雰囲気や翻訳方針など全体的に旧英語版に似ている。
1巻の終盤のシーンで、よつばが「翻訳家とこんにゃくやを間違える」というものがある。これは日本語特有のシャレであるため、言語ごとに違いが出やすく面白い。
まずは日本語におけるやりとりから。
とーちゃん「んー?」「しごとー?」「翻訳家だよー」
よつば「こんにゃくや」
風香「へ?こんにゃく屋?」 出典:日本語版第1巻7話
続いてドイツ語におけるやりとり。
とーちゃん「Hm?」「Meine Arbeit?(しごと?)」「Ich bin Über-setzer.(翻訳家だよ)」
出典:ドイツ語版第1巻7話
よつば「Über-schwätzer!(おしゃべりや!)」
風香「Über-schwätzer?(おしゃべりや?)」
英語版などと同じく、こんにゃくをキープするのは諦めて「Über-setzer(翻訳家)」→「Über-schwätzer(おしゃべりや)」というドイツ語由来の言葉遊びになっている。
まず、「Über」は「何かを超える、移す」、「setzen」は「あてがう」といった意味があり、「Übersetzer」で翻訳家という意味になる。
「schwätzer」は「おしゃべり」を指し、「Über」を「度を超える」というニュアンスで捉えると「おしゃべり野郎」といった感じの意味になる。
おしゃべりさんははたして職業なのだろうか。
このこんにゃく屋ネタは4巻にも登場するのだが、そちらではどう訳されているかというと、
風香「よつばちゃんのお父さんこんにゃく屋さんだったよね?」
出典:日本語版第4巻24話
続いてドイツ語におけるやりとり。
風香「Meintest du nicht mal, dein Vater würde sich mit Konnyaku* auskennen?(お父さん、こんにゃくに詳しいって言ってなかったっけ?)」
出典:ドイツ語(新)版第4巻24話
*geleeartige Masse aus der Konjak-Wurzel. Hat kaum Eigengeschmack und wird als Zu-tat für Suppen und Eintopf verwendet.
(こんにゃく芋から作られるゼリー状の塊。ほとんど味はなく、スープや煮込み料理の具材として使われる)
過去のネタは特に触れず、過去に言っていた体で話が続く。
注釈があることから見ても、ドイツにコンニャクの馴染はなく、無理に日本語に寄せるよりは単体で違和感が無いように訳しているようだ。
よつばと序盤にはしばしばセミの名前が登場する。
ドイツ語ではどう翻訳されているかについて紹介する。
ジャンボ「おーおめでとう あぶらぜみだ」
ジャンボ「クマゼミだ!クマは今日それ一匹だけだ!一番大きいぞ」
出典:日本語版第1巻6話
ジャンボ「Sehr gut, Glück- wunsch.(よくやった、おめでとう)」「Schönes Exemplar.(いい個体(セミ)だ)」
ジャンボ「Geradezu gigantisch. (大きいな) Das ist die Größte heute!(今日一番の大物だ!)」「Freu dich!(やったな!)」
出典:ドイツ語版第1巻6話
翻訳としてはADVの旧英語版の翻訳方針に近く、具体的なセミの名前には言及せず大きさなどで表現している。
一応、ドイツにも3属6種ほどが生息しているそうなので※1、セミそのものを指す言葉がないわけではない。
ただ、セミの生息域には北限があり、だいたい北緯50度までのようだ。※2
ドイツの国土は北緯47度から55度の間なので、いない地域が多いというのはありえる。
ちなみに日本は北緯20度から45度ほどであり、例えばクマゼミなどは東日本にはあまりいないことから、50度以下だったとしても寒い地域ほどセミの種類は少なくなる傾向にあるようだ。
こういった事情もありドイツ人にとってセミの馴染みが薄いため※3、セミの具体名を出さない翻訳になったのだろう。
4巻24話で、よつばが「つくつくぼうしはセミではなく妖精」と勘違いするネタがある。このネタは日本語名「つくつくぼうし」がセミの名を冠しておらず、かつ呼び名と鳴き声が同じであることで成立しているが、国によっては「〇〇セミ」といった名前だったり、鳴き声と呼び名が異なるので翻訳が難しい箇所の一つである。
書き文字「つくつくぼーし」
よつば「つくつくぼーしがつくつくぼーしいってる」
とーちゃん「ああ つくつくぼーしだからな」 出典:日本語版第4巻24話
書き文字「Zippi Zippi」「Zippi Zippi」「Ziiirp Ziiirp」
よつば「Die Zikaden singen.(セミが歌ってる)」
とーちゃん「Ja, es ist ihre Jahres-zeit.(ああ、あいつらの季節だからな。)」 出典:ドイツ版(新)第4巻24話
まず、「Die Zikaden」がセミを意味する。dieは英語でいうtheで、zikadenは複数形なので単数だとZikadeになる。英語圏の「Cicada」やフランス語の「Cigale」と似ていることからも分かる通り、ラテン語の「cicāda」に由来する。
既読者が気になるであろうポイントは、ここでよつばがつくつくぼうしを「Zikade(セミ)」と認識している点であろう。これでは以降のネタが通じなくなるのではないかと思われるかもしれないが、実は作中でセミを指す言葉が2種類存在しており、使い分けることで回避しているようだ。
まず、前述のセミ取りの回では、セミは一貫して「Grille」と呼ばれている。英語で言えば「cricket(クリケット)」と同義で、コオロギやキリギリスなどの鳴き声を発する昆虫全般を指す言葉である。
一方で、よつばのつくつくぼうしに対する認識は一貫して「Zikade」が使われており、これはより厳密にセミを指す言葉である。つまり、Grille=昆虫採集には行ったが、それがZikade=セミとは知らなかったということになる。日本語版でよつばが概念としてのセミは知っているものの、つくつくぼうしという固有名を持つものがセミとは知らなかった、という点を踏まえると、セミに馴染みのない文化における置き換えとしては妥当と思われる。
以降、よつばはZikade=つくつくぼうしとして話を進め、4巻ラストの「つくつくぼうしは…セミでした!」は「Zikaden… …sind Insekten!(セミは…昆虫でした!)」で一連のネタのオチとなる。